人間的公務員「天皇」制のために(10)--「奴隷的天皇制」を主張する日本会議の人々
今回は、前回の続きを論ずる前に、挿入的に言及しておいた方がいいと考える、日本会議の人々の最近の反応を扱います。
私は、以前、「奴隷的天皇制」について議論しました。
それは、本人の意思に反する形で天皇就任を迫る憲法解釈を呼びます。
天皇が死んだら、天皇の長男は、本人がいやといっても、必ず天皇をやらせる、というわけです。
こういう主張が「奴隷的」というのは、ただ本人の意思に反するからだけではなく、家族ではない他人の意思(主権者たる国民の総意)に従わなければならないからです。*1
天皇就任後についても、本人の意思と関わりなく、死ぬまで働け、というのも、奴隷的天皇制のようなものです。
摂政という制度がありますが、それを用いても、家族ではない他人の意思(主権者たる国民の総意)に従わなければならない、という点で、奴隷制が維持されているといってよいでしょう。
ところが、日本会議の主要メンバーは、実質的にこの「奴隷的天皇制」の強要を唱えています。
最近の朝日新聞の記事から引用します。
まずは、摂政制度の採用を主張し、特別措置法に反対する論者達です。
日本会議と神政連の政策委員を務める大原康男・国学院大名誉教授
「例外というのは、いったん認めれば、なし崩しになるものだ」
「畏(おそ)れ多くも、陛下はご存在自体が尊いというお役目を理解されていないのではないか」「天皇が『個人』の思いを国民に直接呼びかけ、法律が変わることは、あってはならない」
安倍首相に近い八木秀次・麗沢大教授
「天皇の自由意思による退位は、いずれ必ず即位を拒む権利につながる。男系男子の皇位継承者が次々と即位を辞退したら、男系による万世一系の天皇制度は崩壊する」「退位を認めれば『パンドラの箱』があく」
これらには、私が主張してきた天皇側の就任拒否権に対する極度の警戒が見られます。
逆に言えば、この問題は、憲法解釈上も実際的な運用上も、彼らのアキレス腱なのです。
次に、上記の人々の立場から少し後退したように見える論者がいます。
百地章・日大教授
「制度設計が可能なら」という留保つきだが、(1)まずは皇室典範に根拠規定を置いたうえで特措法で対応する(2)例外的な退位を定める典範改正は時間をかけて議論する――という2段階論が現実的ではないかとの立場だ。「超高齢化時代の天皇について、陛下の問題提起を重く受け止めるべきだ」
安倍首相のブレーンの一人とされる伊藤哲夫・日本政策研究センター代表
「ここは当然ご譲位はあってしかるべし、というのがとるべき道なのか」(機関紙「明日への選択」9月号)
以上の2人は、「お気持ち」表明前、退位に反対し摂政を主張していたが、表明後にこのように変わった、とされています。
しかし、それは天皇と真っ向から対峙するのはまずいという政治的判断であって、「奴隷的天皇制」を「維持」しようという姿勢は変わっていないように見えます。
この朝日新聞の記事は、発言者名を記していませんが、日本会議の人物のものと思われる次の発言で終わっています。
「首相を説得してでも特措法を封じたい。安倍さんも『天皇制度の終わりの始まりをつくった首相』の汚名は嫌でしょう」
奴隷制の強要に通ずる、恥じずべき憲法解釈とその運用が、21世紀の世界において、「美しい日本」を語る人々によって執拗に述べられる異常を、糾弾したいと思います。