hajimetenoblogid’s diary

このブログは、反安倍ファシズムのすべての人々と連帯するために、米村明夫が書いています。

「シンガポール共同声明」の完全・不可逆的な実施による、平和の完全・不可逆的な実現を!--「北朝鮮の外務省談話」をめぐって1

 米朝首脳が出した「シンガポール共同声明」の本質について、非常に簡潔な「まとめ」があります。

 梅林宏道氏による、東京新聞インタビュー(2018年07月12日掲載)への回答です。

 

――六月の米朝首脳会談で署名した共同声明は、北朝鮮の非核化への道筋が具体的に書かれなかった。

梅林「完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)が明記されず、漠然としているという議論があるが、北朝鮮からすれば『安全の保証』も検証可能で不可逆的である必要がある。現時点では、非常にバランスのとれた妥当な合意だ。どっちが得した、損したということではない」

――非核化の行方は。

梅林「ステツプ・バイ・ステツプ(一歩ずつ)でいくしかない。北朝鮮は、公開した施設以外で(核兵器に利用可能な)ウラン濃縮をしている可能性がある。まず現状の把握が必要だ。次のステツプとして無能力化、最後に(核兵器や施設の解体がある。その間に多様なギブ・アンド・テークがある。米朝で行程について協議するのだろう」

 

 上記のインタビューの質問に見られるように、最近も日本のメディアでは、「シンガポール共同声明」に関しても、見るべきは北朝鮮の<非核化>のみであるかの報道が続いています。

 ところがこの質問に対し、梅林氏は、共同声明を「<非核化>と<安全の保証>のバランスのとれた妥当な合意だ」と明確に答えています。

 そして、氏は、<非核化>と<安全の保証>を合わせたギブ・アンド・テーク、かつ、ステツプ・バイ・ステツプの過程全体の中に、北朝鮮の<完全な非核化>を位置づけてとらえています。

 私は、「シンガポール共同声明」に対するこのような評価・理解は、「声明」の文面自体、非核化の技術的な性格、およびこれまでの経緯に即した常識的なものだと思います。

 梅林氏は、長崎大学核兵器廃絶研究センターが唱える「北東アジア非核兵器地帯構想」を主導してきた人です。彼の発言は、朝鮮半島や日本を含む東アジアの平和・非核化をどのように作り出していくのか、ということを真剣に考える立場と、「シンガポール共同声明」に対する上記のような常識的評価・理解が一致していることを示すものと言えるでしょう。

 しかし、日本のメディアは執拗に<北朝鮮の非核化> の狭窄的視点による報道・論評を続けています。

 例えば、東京新聞は、ネタはほぼ同一なのに、7月6日に行なわれた米朝の高官協議について、その対立状況を強調する記事を、2018年07月8日、07月10日、07月12日の3日間にわたって掲載しています。

 

 見出しを拾ってみますと、

「非核化意志揺らぎかねない」。北朝鮮、米との協議を批判。ポンペオ氏は進展強調 (07月8日)

米朝食い違い「非核化進展」「危険な局面」。北、中国と結束強め、強気に主導権狙う(07月10日)

米朝会談1カ月、非核化進展なし、米、具体的作業に入れず、北、突如終戦宣言を要求 (07月12日)

 そして、 07月11日の社説では、「首脳会談1カ月 次は北朝鮮が動く番だ」と題して、次のように主張しています。

 交渉の行方には、暗雲が広がっていると言わざるをえない。

 対立点は北朝鮮大量破壊兵器を完全に申告し、それを放棄する手順、日程を示す「行程表」を作成することだ。完全な非核化には、この行程表が欠かせない。

 ところが北朝鮮側は、行程表の前に、休戦中である朝鮮戦争の「終戦宣言」実現を求めた。

 体制の保証を確実にしながら、段階的に非核化に応じる、という交渉姿勢が表れている。

 ただ、米国はすでに、韓国との定期合同軍事演習の中止を決めている。次は北朝鮮が、具体的な行動に踏み出す番ではないか。 

 

 この社説の主張は、<北朝鮮の「非核化」のための行程表の作成>と<韓国・米国軍事演習の中止>を、それぞれ等価のもの(平等・正当な取引)として交換すべきであるかに述べるものです。

 「米国はすでに、韓国との定期合同軍事演習の中止を決めている」のに対し、次は、<非核化>のために「北朝鮮が、具体的な行動に踏み出す番」だ、と言うわけです。

 

 しかし、こうした主張は正しいのでしょうか?梅林氏が指摘したような、<非核化>と<安全の保証>のどちらをも完全・不可逆的に実現していくための「ギブ・アンド・テーク、かつ、ステップ・バイ・ステップの過程」と言えるでしょうか?

 もし、この社説のように行程表を作成するとしましょう。

 ①まず、どこにどのような核関連施設・物質・人材がどれだけあるというリストを作ります。

 ②次に、リスト上の各項目について、それらの廃棄の日程を決めていきます。

 このような①②について、未だに戦争状態にある国(つまり、米国)に渡し、あるいは、合意せよ、というのは、北朝鮮の立場からは認めることができないのは当然すぎることです。

 ①だけでも米国に渡してしまえば、米国の圧倒的な武力によって、ピンポイントですべての施設をあっと言う間に破壊されてしまう可能性は否定できず、その危険を恐れるのは当然でしょう。

 さらに②についても合意すれば、実行しない限り、「合意違反だ」としてまた武力攻撃の格好の理由にされるでしょう。また、②を合意、実行しても、<安全の保証>については、放置され、最終的にそれが得られない可能性も否定できないのです。

 ですから、北朝鮮にとって、①②の提出、作成、合意は、事実上の<完全な非核化(無防備状態)>を意味します。

 明らかに、<韓国・米国軍事演習の中止>と、「等価」のものとして引き換えにできるようなものではありません。

 実は、このことは、7月8日の「北朝鮮の外務省報道官談話」の中に、はっきりと次のように述べられています。

 

アメリカ側は今回の会談で合同軍事演習を1つや2つ、一時的に取り消したことを大きな譲歩のように宣伝したが、1丁の銃も廃棄せず、すべての兵力を従来の位置にそのまま置いている状態で、演習という1つの動作だけを一時的に中止したことは、任意の瞬間に再び再開することができる極めて可逆的な措置であり、われわれが取った核実験場の不可逆的な爆破廃棄措置に比べることすらできない問題である。

 

 ここで私が確認したいことは、日本の報道が非常に偏ったものだ、と言う事です。

 北朝鮮による論理を伴った主張は一切紹介せず、論理的な説得力があるか否かは完全に無視して、すべての北朝鮮の主張について、その正当性の有無と無関係に、それは駆け引きであり、揺さぶりであり、牽制である、という決めつけて報道しています。

 そして、このような報道姿勢を保つために、北朝鮮の主張から一部分だけを抜き出して自らに都合のいい記事をつくり、北朝鮮の主張の論理性が伝わってしまうような部分は、隠して報道しないのです。

 上記で言及した東京新聞の3つの記事と1つの社説において、重要なネタであり、かつ、はっきりとした情報源がわかっているのは、私が上記で引用した7月8日の「北朝鮮の外務省報道官談話」です。

 ですから、本来、これらの記事や社説が最低限の事実を公平に伝えようとするならば、北朝鮮の主張を、彼らの論理に沿う形でも紹介しなければならないはずです。しかし、それは全くなされていません。

 では改めて、この「談話」では、北朝鮮自身によって何が主張されているのでしょうか。

 少し長くなりますが、私が言っている事が間違いでないことを理解していただくために、先に引用した部分も含め、主要部分を下に転載しておく事にします。

 実はネット上で、この「北朝鮮外務省報道官の談話全文」の日本語版を探しても、現在は、以下のサイトにしか見る事ができません(私はこのサイトの記述に間違いがない事を、Wayback Machineというサイトを使って確認しました)。

http://www.asyura2.com/18/kokusai23/msg/418.html

 元は、NHKニュースのサイトの記事だったのですが、そこからは消去されているようです(あるいは容易に探し出せないどこかに格納されたのか)。

 要するに(私の邪推でなければ)、北朝鮮の主張は、それに物理的にアクセスができないように、文字通り「隠されて」しまったのです。

 ですから、ここで長文の転載を行なうことは、隠蔽された情報を復活させるという意味でも意義のあることと考えます。

 

「北朝鮮外務省報道官の談話(2018年07月8日)」の主要部分

 

・・・われわれは、アメリカ側が朝米首脳会談の精神に即して、信頼醸成の役に立つ建設的な方案を持ってくるだろうと期待し、それに相応した何かをする考えも持っていた。

 しかし、6日と7日に行われた初の朝米高位級会談で現れたアメリカ側の態度と立場は実に遺憾極まりないものであった。

 われわれ側は朝米首脳会談の精神と合意事項を誠実に履行する変わらない意思から、今回の会談で共同声明のすべての条項のバランスの取れた履行のための建設的な方途を提起した。

 朝米関係の改善のための多面的な交流を実現する問題と朝鮮半島での平和体制構築のために、まず、朝鮮停戦協定65周年を契機に終戦宣言を発表する問題、非核化措置の一環としてICBM大陸間弾道ミサイルの生産中断を物理的に確証するために、高出力エンジン試験場を廃棄する問題、アメリカ兵の遺骨発掘のための実務協議を早急に始める問題など、広範囲な行動措置を、おのおの、同時的に取る問題を討議することを提起した。

・・・

 しかし、アメリカ側はシンガポール首脳会談の精神に反して、CVID=完全で検証可能、かつ、不可逆的な非核化だの、申告だの、検証だの言って、一方的で強盗のような非核化要求だけを持ち出した。

 情勢の悪化と戦争を防ぐための基本問題である朝鮮半島の平和体制構築の問題については一切言及せず、すでに合意された終戦宣言問題まであれこれと条件と口実を付けて、遠く後回しにしようとする立場を取った。

 終戦宣言を一日も早く発表する問題について言うならば、朝鮮半島で緊張を緩和し、強固な平和保障体制を構築するための最初の工程であると同時に、朝米間の信頼醸成のための優先的な要素であり、およそ70年間続いてきた朝鮮半島の戦争状態を終結させる歴史的課題として、北南間のパンムンジョム宣言にも明示された問題であり、朝米首脳会談でもトランプ大統領がさらに熱意を示した問題である。

 アメリカ側が会談で最後まで固執した問題は過去の前政権が固執し、対話の過程を台なしにし、不信と戦争の危険だけを増幅させたガンのような存在である。アメリカ側は今回の会談で合同軍事演習を1つや2つ、一時的に取り消したことを大きな譲歩のように宣伝したが、1丁の銃も廃棄せず、すべての兵力を従来の位置にそのまま置いている状態で、演習という1つの動作だけを一時的に中止したことは、任意の瞬間に再び再開することができる極めて可逆的な措置であり、われわれが取った核実験場の不可逆的な爆破廃棄措置に比べることすらできない問題である。

 会談結果はかなり憂慮すべきものであると言わざるをえない。アメリカ側が朝米首脳会談の精神に合致するように、建設的な方案を持ってくるだろうと考えたわれわれの期待と希望は愚かであると言えるほどの純真なものであった。

・・・

 朝米関係の歴史上初めてとなるシンガポール首脳会談で、短い時間に貴重な合意がなされたこともまさにトランプ大統領自身が朝米関係と朝鮮半島の非核化問題を新しい方式で解決しようと言ったためである。

 双方が首脳レベルで合意した新しい方式を実務的な専門家レベルで放棄し、古い方式に戻っていくならば、両国人民の利益と、世界の平和と安全のための新しい未来を開いていこうとする両首脳の決断と意志によって用意された世紀的なシンガポール首脳会談は無意味になるだろう。

 今回、初の朝米高位級会談を通じて、朝米間の信頼はさらに強固になるどころか、かえって、確固不動だった、われわれの非核化の意思が揺らぎかねない危険な局面に直面することになった。

 われわれはこの数か月間、できるだけの善意の措置をまず取り、最大の忍耐心を持って、アメリカを注視してきた。

 しかし、アメリカはわれわれの誠意と忍耐心を間違って理解したようだ。

 アメリカは自分の強盗のような心理が反映された要求条件までも、われわれが忍耐心を持って、受け入れると見なすほどに、根本的に間違った考えをしている。

 朝米間の根深い不信を解消して信頼を醸成し、このために失敗だけを記録した過去の方式から大胆に脱して、既成にこだわらず、全く新しい方式で解決していくこと、信頼醸成を優先させて、段階的に同時行動の原則に基づいて解決可能な問題から1つずつ解決していくことが朝鮮半島の非核化実現の最も早い道である。

 しかし、アメリカ側が焦燥感にとらわれて、前政権が持ち出した古い方式をわれわれに強要しようとするならば、問題の解決にいかなる助けにもならないだろう。

 われわれの意思とは別に、非核化の実現に適する客観的な環境が醸成されないならば、むしろ良好に始まった両国関係の発展の気流が乱れることになる。

 逆風が吹き始めれば、朝米両国にはもちろん、世界平和と安全を願う国際社会にも大きな失望を抱かせ、そうなれば、お互いが間違いなく、ほかの選択を模索することになり、それが悲劇的な結果へとつながらないという保証はどこにもない。われわれはトランプ大統領に対する信頼をまだ保っている。

 アメリカは首脳の意思とは異なり、逆風を許すことが果たして世界の人民の志向と期待に合致し、自国の利益にも合致するのかを慎重に考えるべきである。 

 

  

 次回に、メディアがこの「北朝鮮の外務省報道官談話」の主張の論理的骨格を無視・隠蔽しながら、いかに自己に都合のいい引用を行なっているか、ということを確認した上で、現在何が起きているのか、という問題を議論したいと思います。