hajimetenoblogid’s diary

このブログは、反安倍ファシズムのすべての人々と連帯するために、米村明夫が書いています。

「シンガポール共同声明」の完全・不可逆的な実施による、平和の完全・不可逆的な実現を!--「北朝鮮の外務省談話」をめぐって2(「シンガポール共同声明」の基本的理解)

 前回は、メディアが、「北朝鮮の外務省報道官談話」の主張の論理的骨格を無視・隠蔽しながら、相変わらず、<北朝鮮の非核化>のみに焦点を当てた狭窄的な報道を続けていることを批判しました。

 そうした報道・評論の基本的な問題は、「シンガポール共同声明」というすでに存在する米朝間の合意内容をきちんと把握・紹介し、そうした合意内容を基準にしながら、「北朝鮮の外務省報道官談話」の主張を理解・評価していく、という初歩的であると同時に大切な作業が全くなされていないことです。

 実は、こうした報道の問題は、「北朝鮮の外務省報道官談話」についてばかりのことではありません。「シンガポール共同声明」自体について、基本的な理解・評価という作業が欠けているのです。

 6月12日の米朝首脳会談で「シンガポール共同声明」が出される前後には、関連する大量の報道がなされました。

 しかし、合意文書としての「シンガポール共同声明」をその文章に即する形できちんと把握・紹介した記事には、私は出会っていません。

 いわゆる専門家達のコメントの類は山のようにあります。しかし、そうした専門家達によるフィルターのかかった情報知識は、却ってものごとの単純な理解を妨げ、有害な場合が多いように思います。

 何故なら、南北朝鮮首脳会談で発せられた「板門店宣言」から始まり米朝首脳会談の「シンガポール共同声明」に至る、このすばらしい歴史的な過程は、すでに専門家達の「知見」「予想」の範囲を超えたものだからです。

 斎藤美奈子氏は、「シンガポール共同声明」を罵倒する専門家達(=各論クン)をこんなふうに皮肉っています。

 

 日米のメディアは一様に苦虫を噛み潰したような論調だった。非核化への具体策がない、単なる政治ショーだった、奴らに編されるな……。

 そりゃそうよねえ。よりにもよって、あのトランプとあの金正恩、世界の問題児たる二人が手を携えて東アジア和平への扉を開く?知性と教養のある皆さまには耐えられないわよね

 でもさ、昨年の一触即発状態に比べたら大進歩じゃない?百点じゃなく六十点でも歓迎しとこうよ。とかいおうものなら「この素人が」みたいな目で見られ、事情通の各論クンが出てきて「いや〇点だ」という。なので素人は黙っちゃう。・・・

                  (東京新聞2018年06月20日

 

 そこで、「北朝鮮の外務省報道官談話」(米朝関係の現在)をどうとらえるか、という問題に迫るためにも、次の2つが、初歩的ではあるが必要な作業だと思います。

    ①「シンガポール共同声明」の読解

    ②記者会見にみるトランプの「取引deal」概念の検討

 ②は、①の「シンガポール共同声明」理解に資するものです。

 

 今回は、①を行ないます。

 ちょっと長いですが、「シンガポール共同声明」の主要部分を掲げます。

 

 トランプ大統領金正恩委員長は、新たな米朝関係の樹立および朝鮮半島における持続的かつ堅固な平和体制の構築に関する諸問題について、包括的で綿密かつ誠実な意見交換を行なった。トランプ大統領は、北朝鮮に対して安全の保証を提供することを約束し、金正恩委員長は、朝鮮半島の完全な非核化に向けた揺るぎない、確固たる決意を再確認した。

 トランプ大統領金正恩委員長は、新たな米朝関係の樹立が朝鮮半島ならびに世界の平和と繁栄に貢献することを確信し、かつ相互信頼の醸成が朝鮮半島の非核化の促進を可能にすることを認識し、以下を表明する。

 

 1.米国と北朝鮮は、両国民の平和および繁栄への願いに応じ、新たな米朝関係の樹立を約束する。

 2.米国と北朝鮮は、朝鮮半島に持続的かつ安定した平和体制を築くため共に取り組む。

 3.北朝鮮は、2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組むことを約束する。

 4.米国と北朝鮮は、すでに身元が特定された遺骨の迅速な送還を含む、戦争捕虜および行方不明兵の遺骨の収容を約束する。

 

 史上初となった米朝首脳会談は、長年にわたる米朝間の緊張および敵対状態を乗り越え、新たな未来を切り開く上で、非常に意義のある、画期的な出来事となったことを認識した上で、トランプ大統領金正恩委員長は、本共同声明に定める条項を完全かつ迅速に履行することを約束する。米国と北朝鮮は、米朝首脳会談の成果を履行するため、マイク・ポンペオ米国国務長官および相応する北朝鮮の政府高官が主導する継続交渉をできるだけ早い時期に開催することを約束する。

 米国のドナルド・J・トランプ大統領朝鮮民主主義人民共和国金正恩国務委員長は、新たな米朝関係の発展、および朝鮮半島ならびに世界の平和、繁栄、安全の促進に向け、協力すること約束した。  

 

 (これを改めて読むと、「ちょっと長い」と書きましたが、それほど長くはなく、また、外交文書らしくなく、素人にも分かりやすい文章だと感じます--私の知性がトランプや金正恩と同レベル?(笑))。

  

 この共同声明は簡潔なものですが、もっと簡約してしまえば、

 

<米国による北朝鮮の安全の保証>と<北朝鮮による自らの完全な非核化>を交換した、あるいは、交換する約束をした。

 

と言うことです(それは、上記引用の第1段落の最後の緑字の3行に明記されたことです)。

 私が上記の「簡約」において、「交換」という言葉を用いたのは、②の「取引deal」という概念と関係していますが、それについては次回に議論します。

 

  ここで、少し本筋からは逸れますが、必要と思うコメントを加えておきます。

 メディアの多くは、北朝鮮に対する悪意(あるいは「シンガポール共同声明」に対する悪意)を持って、<安全の保証>という言葉の代わりに、<体制の保証>という言葉を多用しています。--「あの北朝鮮の人権抑圧体制を保証するなんて!」というわけです。

 しかし、「シンガポール共同声明」の正式なものとされている英文は、

President Trump committed to provide security guarantees

となっていますし、在日米国大使館の日本語訳でも、

トランプ大統領は、北朝鮮に対して安全の保証を提供することを約束

となっています。

 どこにも、<体制の保証>なんて言う言葉はありません。

 「シンガポール共同声明」において米国が北朝鮮に対して提供しているのは、<安全の保証>--つまり、米国が北朝鮮に攻め込まないという保証--であって、人権抑圧のための<体制の保証>ではないのです。

 ですから、<安全の保証>と<完全な非核化>の交換という「シンガポール共同声明」の本質は、北朝鮮にとっての願いに対応しているだけでなく、独立国に攻撃をしかけないという国際常識に沿ったものです。

 

 本筋に戻ります。では、この<安全の保証>と<完全な非核化>の交換は、どのように行なわれるのでしょうか?

 <安全の保証>は、より具体的には、「1.新たな米朝関係の樹立」、および、「2.朝鮮半島における安定的な平和体制の構築」によってなされます。

 「1.」は米朝2国のみの問題で、「2.」はさらに必ず韓国をも含む3カ国(以上)の問題です。「2.」は、「板門店宣言」において言及されている「平和体制の構築」を踏襲しているものです。

 「1.」は、「シンガポール共同声明」の合意によってすでに開始していると言えるかもしれませんが、「樹立」という言葉は、英語で「establish」であり、制度化された安定的な関係が築かれることが想定されています。その意味で、これは今後に成就されるべき関係を指しています。

 「1.」として考えられるのは、例えば米朝平和条約あるいは米朝相互不可侵条約の締結といったことです。

 「2.」として考えられるのは、朝鮮戦争に関して、現在なお有効な休戦協定に対して、朝鮮戦争終結宣言を発することであり、さらに休戦協定に代えて平和協定を締結する、といったことです。

 

 「1.」と「2.」は、実質的に一体的な関係にあります。

 従って、具体的なあり方としては、「2.」だけが実現され、それによって「1.」も実質的に実現される(特に「米朝平和条約」等の締結がなくても、両国の安定的な平和的な関係が成立したと解される)、ということもあるかもしれません。ただ、論理的なあり方として、「1.」が先に並べられ、続いて「2.」が来る、というような配置になっているのでしょう。

 また、これらの2つの項目の主語は、いずれも、「米国と北朝鮮は」となっていますが、実質は、米国が北朝鮮に<安全の保証>の保証を与えるということですから、米国にとっての義務的な内容の項目と言うことができます。

 他方、「3.北朝鮮による朝鮮半島の完全な非核化」は、主語は「北朝鮮は」となっており、北朝鮮に対する義務的な内容の項目です。

 これは、「朝鮮半島の完全な非核化」と表現されていますが、実際には、「3'.北朝鮮による自国の完全な非核化」の義務を意味していると解して良いでしょう。

 何故このような表現になっているのかというと、「3.」全体を読み直してみるとわかるように、「完全な非核化」という表現が指しているものが、「板門店宣言」で表現されている「完全な非核化」と同一である、ということを確認するためだと考えて良いでしょう。

 つまり、「板門店宣言」では、「南と北は、完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認した」と述べられています。

 ここでいう「完全な非核化」とは、韓国と北朝鮮が平等な関係でそれぞれの国が自ら実現することがらとして提示されています。

 これに対し、日米の「専門家達」がいう「完全・検証可能・不可逆な非核化CVID」は、米国(国際社会)が北朝鮮の非核化を、事実上北朝鮮の主権を超えて、一方的・強制的に実施させていくことを前提として、そのための技術的な装いを与えた概念です。

 ですから、「3.」が意味するのは、日米の「専門家達」の「完全・検証可能・不可逆な非核化CVID」を明確に拒否したものとしての、「板門店宣言」でいわれている「完全な非核化」が合意された、そうした「完全な非核化」が北朝鮮の義務である、ということです。

 ですから、「3.」という合意がある以上、「専門家達」やメディアが、技術的な問題のような体裁をとりながら、あたかも当然のものとして「完全・検証可能・不可逆な非核化CVID」を米朝協議の中に要求するのは、むしろ、合意違反を分かってしているか、合意を理解できていないかのどちらかだといって良いでしょう。

 では、<米国による北朝鮮の安全の保証(「1.」および「2.」)>と<北朝鮮による自らの完全な非核化(「3.」 )>の交換は、どのような順番で行なわれるのでしょうか?

 それは、ことがらの性質から自ずから、<米国による北朝鮮の安全の保証>がまずあって、それから<北朝鮮による自らの完全な非核化>があると言っていいでしょう。

 私は今、「ことがらの性質から自ずから」と書きました。これは、「常識から」と書き換えても同じです。

 実際のところ、この常識は、「シンガポール共同声明」のこれらの項目の提示順が、<米国による北朝鮮の安全の保証(「1.」および「2.」)>が先で、<北朝鮮による自らの完全な非核化(「3.」 )>が後になっていることにも反映しています。

 仮にこれが逆の順になっていたら、誰もが非常に奇妙な印象を抱いたのではないでしょうか。

 また、前文の最後の2行に注目しましょう。そこには、

相互信頼の醸成が朝鮮半島の非核化の促進を可能にすることを認識し

とあります。

 これは、相互信頼がなければ、<完全な非核化>が不可能なことを意味しています。そして、相互信頼のための必要最小条件として、米国による北朝鮮に対する<安全の保証>があることは明らかでしょう。

 つまり、ここにも<安全の保証>が<完全な非核化>に先行することが示されているということができます。

 さらに、ここで「相互信頼の醸成」と「非核化の促進」という、「相互信頼」と「非核化」それぞれにおいて、それぞれのプロセスを含意した「醸成」と「促進」という表現が与えられていることに注目できます。

 つまり、「朝鮮半島の非核化」が先に述べたように、<北朝鮮による自らの非核化>を意味するならば、米国が<安全の保証>を北朝鮮に与え、それによって米国を信頼した北朝鮮が、<非核化>を行ない、それによって北朝鮮を信頼した米国がさらに<安全の保証>を北朝鮮に与え、それによって米国をさらに信頼した北朝鮮が、さらに<非核化>を行ない、・・・・、というプロセスが、ここには想定されていると考えていいのです。

 このブローグの前回に、インタビューに対する梅林氏の答を紹介しましたが、まさに、氏が述べている、「ギブ・アンド・テーク」かつ「ステップ・バイ・ステップ」のプロセスです。

 このプロセスにおいて、北朝鮮の<非核化>が不可逆的かつ決定的な段階に至るためには、米国が与える<安全の保証>が不可逆的かつ決定的な段階に至っている必要があるでしょう。--このことも、梅林氏が指摘していたことと言っていいでしょう。

 「4.戦争捕虜および行方不明兵の遺骨の収容・送還」は、相互信頼醸成のための具体的な行動の第一歩ということができます。あるいは、米朝会談の開催は非常に長い間北朝鮮が望んできたことですので、その開催は米国による北朝鮮へのギブと解せますので、「4.」は、それへのさしあたっての返礼(北朝鮮から米国へのギブ)と解することもできます。

 

 以上、その文言に即した形で「シンガポール共同声明」の読解を試みました。

 読者は、この読解から、「シンガポール共同声明」は、北朝鮮が望んだことがほぼ完全に満たされているものである、あまりに北朝鮮に好都合すぎる、と感じたかもしれません。

 ただ、北朝鮮の非核化を成就するために、他の可能性があったのでしょうか?

 私に思いつく他の可能性は、国際的な制裁の持続・強化だけで、その場合、次の3つ結果のいずれかがあるように思います。

 a.国際的な制裁の強化によって、北朝鮮が「すべて米国あるいは国際社会のいうとおりにする」と自ら白旗を揚げる、あるいは、国家として自壊する。

 b.国際的な制裁の強化によって、北朝鮮が自暴自棄に陥り、自衛のためと称して、軍事的な行動を韓国・日本・米国等に対して行なう。

 c. 国際的な制裁の強化を続けながら、北朝鮮がbの行動に移る前に、米国が(中心となって)北朝鮮に対する軍事的行動を行なう。

  私は、aの可能性は低く、bまたはcになる可能性が高いと思います。bやcよりも、「シンガポール共同声明」の方法による<完全な非核化>の方がずっといいと考えます。

 「シンガポール共同声明」の方法では、北朝鮮が<安全の保証>だけ得て、<完全な非核化>は行なわないまま、「食い逃げ」されてしまうのではないか、という反論があるかもしれません。

 私は、北朝鮮がそうした行動をとるとは思いません。そうした時には、米国は<安全の保証>を撤回し、軍事的手段に訴える理由を持つことになりますし、実際にそうした理由に基づいた行動を取る可能性が非常に高いと思われるからです。

 この「シンガポール共同声明」が北朝鮮に好都合すぎるかどうかはさておき、重要なことは、「シンガポール共同声明」は、米朝2国間の合意としてすでに存在しているものだ、ということです。

 従って、米朝間の高官協議は、この「シンガポール共同声明」の基本枠に基づいてなされなければならないものです。

 報道や評価も、そうした前提がはっきりと自覚される必要があります。--実際にはそれがないので、私がここでこの読解を行なったわけですが。

 

 今回の「シンガポール共同声明」の読解を通じて、そのアイデアの根本が、実は「板門店宣言」にあることがわかると思います。

 「板門店宣言」には、北朝鮮の立場を考慮し、自国・近隣国への多大な犠牲を強いる軍事的オプションを避けながら、平和的な環境を作り出す中で完全な非核化を実現しようとする、韓国指導者による創造的な外交努力が反映しています。

 歴史家達は将来、この創造的外交努力を高く評価し、これに続く「シンガポール共同声明」の路線選択を、米国にとっても賢明なものであったと評価することでしょう。

 

****************************************************************

 次回は、

     ②記者会見にみるトランプの「取引deal」概念の検討

を行ないます。