「グローカルな連帯」と英国のEU離脱(3)
EUにせよ、離脱したこれからのイギリスにせよ、新自由主義で経済成長をした上で、国民の福祉をどうにか維持しようというのが、政府の基本政策であったし、これからもそうでしょう。
しかし、これは国民にとっても、政府にとってもかなり厳しい道です。ほとんど不可能な国もあるでしょう。
イギリスのEU離脱は、基本的に、国民の多くが新自由主義の下で行われてきた諸政策の結果(つまり福祉の低下やさらなる低下の可能性)に対して不満や不安を持っていることの現れです。
離脱によって問題の解決があるかに言うデマゴギーが浸透し、そういうデマゴギー政治家による煽動が効果を持ったのは、 こうした不満や不安が予想以上に蓄積していたことによります。
新自由主義路線を取るイギリス政府およびイギリス大企業としては、離脱後はさらに競争条件が厳しくなるので、より新自由主義を突き進める他ないと感じているでしょう。
ところが、国民はそれをいやだと意思表示したのに等しい状況にあるわけです。従って政府は(野党も)、政治的に非常に難しい局面に直面することになります。
これからの報道は、EUとの離脱交渉ということに焦点が集まるでしょうが、むしろ、国内的な不満をどのように整理して対応していくのか、ということが非常に困難な課題として大きくなっていくと思います。
新自由主義の道が、国民にとっても、そして国家にとっても険しいものであることは、今、EU内で一人勝ちといわれているドイツの場合を見るとわかります。その勝ちの重要因は、極端な低労働コストにあります。
ドイツは、2005年にハルツIVと呼ばれる雇用・福祉改革を行ないました。これによって、日本での生活保護にあたる援助を受けることがかつてより厳しくなり、非正規雇用、ワーキングプーアを含めた低賃金労働力が作り出されてきました。
単位労働コストの水準を見たものがあります。2000年を基準100として、2012年は、欧米、東欧諸国では120以上となっているのに、ドイツでは、110という水準です。
杉浦哲郎 、吉田健一郎 「ドイツ経済はなぜ蘇ったか」
https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/eu140227.pdf
2016-07-09
これは、ドイツでの労働者の賃金が低水準で維持されていること(労働者を犠牲とした新自由主義的な政策の推進)を示唆する統計です。ちなみに、日本は、何と80という、ダントツの下がり具合です。
そして、ドイツ経済は輸出によって稼ぐという、「古典的」な道を進んでいます。従って、それは内需が弱く、対外不均衡を持ち、ドイツ自身、いつまでもこの道を進むことは困難でしょう。
では、どうしたらよいでしょうか。
ヨーロッパの左翼、あるいはアメリカのサンダース現象を含めれば、欧米の左翼では、大雑把に言って、資本に対抗し資本を規制するために、国家の民主的な役割を取り戻し、ケインズ主義的な福祉国家を再建していく道を考えているようです。
例えば、私はまだ読んでいないのですが、ヴォルフガング・シュトレーク『時間かせぎの資本主義――いつまで危機を先送りできるか』が、そうした考え方を展開しているようです。
近い内にこれ読んで議論し直したいと思いますが、現時点での私の考えを、「グローカルな連帯」と関わって、述べておきます。
私は、現在は、マルクスが言った、労働者のインターナショナルな連帯の必要性が明らかになってきている時代だと思います。
理屈は、そうなんだけれど、実践でどうしたらいいかわからない、というのが実際のところともいえます。
そこで、私はこのシリーズの第1回目で、実践的な方向を示すものとして「グローカルな連帯」ということを述べておきました。
次回以降に、経済成長、資本主義の発展ということについて議論し、それと関わる形で、「グローカルな連帯」について述べていきます。