hajimetenoblogid’s diary

このブログは、反安倍ファシズムのすべての人々と連帯するために、米村明夫が書いています。

北朝鮮の非核化における「制裁一辺倒」から「対話(交渉)」への変化と「ASEAN外相会議共同声明」--まともな報道ができない日本のメディア

 私は前々回のブローグで、「シンガポール共同声明」の本質が、米国が北朝鮮に「安全の保証」を、北朝鮮が米国に「完全な非核化」を約束したことにあることを、明らかにしました。

 このことは、米朝会談によって、米国の北朝鮮に対する姿勢が、「制裁一辺倒」路線であったことから、「対話(交渉)」へと大きく変わったことを意味します。

 「べき」論ではなく、事実としてこの変化があったことを認めなくてはいけません。

 「制裁一辺倒」路線とは、相手がいうことを聞くまで制裁を続け、相手がいうことを聞いたら、単に制裁を解除する、ということです。

 これに対し、今回の米朝会談でなされた合意である「シンガポール共同声明」は、「北朝鮮がいうことを聞いたら、制裁を解除する」というものではありません。

 米国は、北朝鮮が「完全な非核化」を行なったならば、単に制裁を解除すると言っているのではありません。(もしそうであったら、わざわざ会談を行ない、声明を出す必要はありません。また、世界中があれほどの大騒ぎをしなかったでしょう。)

 米国は、北朝鮮が「完全な非核化」を行なうならば、それと引き換えに、(制裁解除はもちろん、さらに北朝鮮が望んでいる)「安全の保証」を与える、と言っているのです。それは、対話、交渉、あるいは取引と呼ぶべきものでしょう。

 そのことが好ましいか否かは別として、米国の政策方向は、事実として「制裁一辺倒」路線から変化しました。

 米国(および北朝鮮)は、信頼を醸成する(ここに当然米国による「安全の保証」が含まれるでしょう)こと、それによって、朝鮮半島の非核化を促進することを、相互に、そして国際社会に対し約束しました。

 こうした変化に対し、当然のことながら国際社会は敏感に対応しています。この変化を前提に各国は動いているのです。

 ところが、日本では政府だけではなく、メディアまでがこの事実に目を塞いでおり、国民の目にこの事実が見えないようにする悪質な報道(あたかも、世界も「制裁一辺倒」路線を取り続けているような報道)を行なっています。

 それは、政府に協力して、ますます日本が世界の動きから取り残されるようにすることだと言わねばなりません。

 

 8月2日には、ASEAN外相会議が開かれ、その共同声明が発表されました。それをネットでググると、2つの画像付きの記事がトップにあがってきます。

 それら2つは、TBS Newsとニフティニュースで、見出しは、

ASEAN外相会議、北朝鮮に非核化促す共同声明を発表」

と、2つとも同じです。

 8月4日現在、ニフティニュースの方はクリックしても記事が出てこないので、TBS Newsの方の記事を読んでみますと、

 

ASEAN外相会議、北朝鮮に非核化促す共同声明を発表」

 

ASEAN東南アジア諸国連合外相会議の共同声明が2日、発表され、朝鮮半島の非核化に向けた取り組みの強化を促すとの文言が盛り込まれました。

・・・

 会議では、朝鮮半島情勢について意見が交わされ、共同声明には「米朝」や「南北」の首脳会談が実現したことを歓迎しつつ、非核化に向けた取り組みの強化を促すとの表現が盛り込まれました。

 

となっています。 

 これを読むと、タイトルも含めると、「非核化を促す」という言葉が3回も出てきます。

 まるで、ASEAN外相会議も、「制裁一辺倒」路線のような印象を受けます。

 実際はどうなのでしょうか。正式の英文文書の該当部分は、次のようになっています(①、②、・・・、等は、私が付加しました)。

Developments in the Korean Peninsula

76.

①We welcomed the Inter-Korean Summits (IKS) held on 27 April 2018 and 26 May 2018, as well as the summit between the United States (US) and the Democratic People’s Republic of Korea (DPRK) in Singapore on 12 June 2018.

②We also welcomed the Panmunjom Declaration, as well as the Joint Statement signed between US President Donald J Trump and Chairman of the State Affairs Commission of the DPRK Kim Jong Un.

③We urged all concerned parties to continue working towards the realisation of lasting peace and stability on a denuclearised Korean Peninsula.

④We also welcomed the DPRK’s stated commitment to complete denuclearisation and its pledge to refrain from further nuclear and missile tests during this period.

⑤We reiterated our support for all relevant United Nations Security Council Resolutions and international efforts to bring about the complete, verifiable and irreversible denuclearisation of the Korean Peninsula which will contribute to peace and stability in the region.

 

 日本文のTBS Newsの記事の実質は、その最後の段落であり、それは、英文の①と③に対応しています。

 これは、英文の趣旨をまとめた、とは言い難いもの、似て非なるものです。

 まず、声明英文の基調を見ましょう。

 該当部分のタイトルは、Development in the Korean Peninsula(朝鮮半島における発展)となっており、外相会議開催時までの新しい動きを記述し、それを評価したものですが、今回の声明では、①②④にwelcomedという動詞表現があるように、全体として新しい動きを歓迎するものです。

 次に構成を考慮しながら、英文の内容を見ていきましょう。

 一見すると、①「韓国と北朝鮮の首脳会談および米国と北朝鮮の首脳会談が行なわれたことを歓迎する」、と②「それらでの合意である『板門店宣言』と『シンガポール共同声明』を歓迎する」、は同じようなことでどっちかを省略してもいいことのように見えます。

 しかし、①に続く②は、単に①という事実だけではなく、国家間の「合意」が得られたという外交的に重要な事実を語っており、従ってまた、ASEAN外相達が、それらの「合意」を歓迎したというこれまた外交的に重要な事実を語っています。

 従って、あえて①か②のどちらかを省略するならば、①は省略することができますが、 ②は省略することはできません。

 ③は、日本語に訳すと、次のようになります。

 

③我々は、すべての関係国が、永続的な平和と安定の実現に向かって、朝鮮半島の非核化の作業を続けることを促した。

 

 これは、「北朝鮮」対して、非核化を促したのではなく、「すべての関係国」に対して「朝鮮半島の非核化の作業」を続けるように促しています。

 さらに、ただ「朝鮮半島の非核化の作業」という表現があるのではなく、「永続的な平和と安定の実現に向かって」という表現が伴われています。

 これらの表現の意味は、③が、①②の続きである、という構成を考えればよくわかります。

 つまり、①②で登場するすべての関係国」を念頭に、②での合意を踏まえて、「すべての関係国」に作業の続き(平和構築と朝鮮半島の非核化)を行なってくれ、と言っているのです。

 ④は、welcomedと言っているのですから、北朝鮮に注文を付けているのではなく、北朝鮮の行為(完全な非核化の約束言明と核実験・ミサイル発射の停止誓約)を肯定的に評価しています。

 ⑤は、国連安全保障理事会の決議(制裁)と朝鮮半島完全・検証可能・不可逆な非核化の国際的努力に対する支持を表明しています。

 実は、去年2017年8月のASEAN外相会議の共同声明の「朝鮮半島における発展」部分は、北朝鮮のミサイル発射に対する深刻な懸念の表明から始まり、北朝鮮に対して、国連安全保障理事会の(制裁)決議(の要求)に完全・即時に従うよう促す文章が続いていました。

 明らかに、今年の「ASEAN外相会議の共同声明」は、「制裁一辺倒」路線とは全く異なったもの、「制裁一辺倒」路線ではなくて、「板門店宣言」や「シンガポール共同声明」の合意を歓迎・前提としたもの--「対話・交渉・取引」を歓迎したもの--であることが分かります。

 ただ、去年の「ASEAN外相会議の共同声明」に触れたので、少しそれについてもう少し書きます。

 それは、去年の時から、「制裁一辺倒」路線から異なるものでした。上記の北朝鮮に対する発言に続き、次の文章が続いています。

 

 我々は、平和的な方法での朝鮮半島の非核化を支持することを繰り返し述べ、また、緊張を和らげ、平和と安定の条件を創造するための自制の実行と対話の再開を呼びかけた。

 我々は、朝鮮半島での恒久的な平和の確立に向けて韓国-北朝鮮関係を改善するイニシアチブに対する支持を表明した。

 これを読むと、今年の南北会談や米朝会談を準備・予告しているような印象さえ受けます。

 また、言葉としても、「北朝鮮の」非核化とは言わずに、「朝鮮半島」非核化という言葉が用いられているのは、今年(⑤)に始まるのではなく、すでに去年のものであったことも興味深いことです。

 つまり、去年のASEAN外相会議での国際合意である「朝鮮半島の非核化」は、「板門店宣言」や「シンガポール共同声明」でも繰り返し採用されきたということです。「朝鮮半島」非核化は、もはや文字通り地域的な国際的合意になりつつあると言えるでしょう。*1

 

 さて、日本語のTBS NewsのASEAN外相会議のニュースに話を戻します。

 その内容が非常に偏ったもの、原文の趣旨をねじ曲げたものとなっていることは、以上の英文についての説明から明らかでしょう。

 まず、TBS Newsのタイトルは、「すべての関係国に」という言葉を勝手に「北朝鮮」という言葉に置き換えています。その上で、「非核化」を促す、という表現を計3回繰り返しています。

 (タイトル以外では、「誰に対し」という表現が省略されていますが、タイトルで「北朝鮮」という表現がある以上、当然、読者は「北朝鮮」と受け取るでしょう。)

 また、③は「非核化」という表現だけではなく、「永続的な平和と安定の実現に向かって」という表現があったのですが、TBS Newsでは、後者はカットされています。

 批判を避けるためでしょう。申し訳に、①の2つの首脳会談の歓迎には触れられていますが、より重要な②の2つの国際的合意への歓迎はカットされています。

 

 以上、TBS Newsの報道は、前回私が批判した朝日新聞の社説のやり方と似たようなねじ曲げの「方法」が採用されていることが分かります。

 ネトウヨは、「歴史戦」と称して、彼らの「国家観」に即してウソの歴史を捏造し、ばらまいてきました。

 今、マスメディアが行なっていることは、過去ではなく現在を、彼らや政府の「制裁一辺倒」路線、「北朝鮮の非核化」のみの狭窄的視点から、ねじ曲げて捏造し、それをばらまくということです。

 強く批判したいと思います。

 

*1: 厳密にいうと、「シンガポール共同声明」における「朝鮮半島の非核化」は、北朝鮮がそうした方式で非核化に取り組むことに合意した、ということです。従って、米国が「朝鮮半島の非核化」に合意したわけではない、ということも不可能ではありません。 

 しかし、安定的な平和体制の構築を考える時、「朝鮮半島の非核化」が合意となっていくのは、自然な成り行きとしか言いようがありません。